プレゼン資料の英訳~どう英語で表現するか、その精緻さ~

 

プレゼン資料というのは、1ページあたりの情報量が少ないのが特徴です。

それは企業の製品発表用でも、学会発表用でも、パワーポイントを使っても、keynoteを使っても一緒です。

 

情報量が多い、すなわち文字数が多いものでしたら、その文章の前後関係で意味が分かりやすいです。論文なんかが典型的な例ですね。(論文が分かりにくかったら致命的です)
しかし、プレゼン資料で、1ページあたりの文字数が多いものは、ものすごく字が小さくプレゼン資料足り得ないのが現実です。

 

いっぽうで、情報量が少ない=文字数が少ないプレゼン資料では、言葉が端的であるからこそ、意味がぼやけてしまう場合があります。
プレゼンテーターがその資料を見ながら説明をするわけですので、資料に書かれている意味とプレゼンテーターが話す内容とがリンクされていないと意味がありません。
 
だから、プレゼン資料の作成というのは、結構難しいと言いますか、気を遣うものなのんです。
 
さて、タイナーズは翻訳会社です。
お客様のプレゼン資料を、一から日本語で作成することは、まずありませんが、お客様が作った日本語のプレゼン資料を英語にする機会は、よくいただきます。
 
ここでは、私たちがプレゼン資料の中にある言葉について、どのように表現しようとしているのか、その一端をご覧いただければと思っています。
実際のプレゼン資料(企業の製品)を元に説明をしていますので、どうぞご覧ください。

 

 

 

純国産

Made in Japan with raw materials produced domestically

「純国産」という言葉は珍しいものではありませんが、英訳するにあたって、「純粋な国産」とはいったいどういうものだろうと考える必要があります。

「純粋な国産」とは、工業製品でもレトルトパックのカレーでもスナック菓子でも、その原料・生産環境など、構成要素すべてが自国内のもの・環境であることを意味します。いっぽうで、単に「国産」であれば、自国で生産したものを指しますので、たとえば東南アジアで作られた部品が使われていることもあります。

こういったことを考えたとき、まずはMade in Japanを用いるべきだと考えます。そしてこれだけだと「国産」にとどまってしまいますので、「純」をどうするか、考えました。いわゆる「純粋に」という意味を持つpurelyや、「完全に」という意味を持つentirely、あるいは、そのまま直球で100%、でも意味としては間違いではありませんが、「純国産」の本来の意味を反映しているかといえば、そうでもありません。

そこで、with raw materials produced domestically(国内で生産された原料を用いている)を加えます。これで、国内で生産された原料を用いていており、日本で作られているという意味を持たせることができます。

 

 

 
海外は200m/分 生産性優先で高速で引くと糸がビンと張った針金糸
Foreign-produced silk is reeled 200m per minute. By prioritizing productivity over quality, thread is reeled at high speed but stretched like a wire.

私たちの日常生活の中で頻繁に使われる「優先」という言葉。バスや列車の優先席や飛行機の優先搭乗、道路で見かけるバス優先レーンなどはお馴染みです。健常な人よりもお年寄りや怪我人など乗り物内で立っていることが困難な人を優先する、一般客よりも子連れなど立って待っていることが大変な人を優先する(優先搭乗の場合、それ以外にも優先される人はいますが)、一般車よりも公共の乗り物であるバスを優先する、ということです。

日本語でも英語でも、大抵は文脈や会話の流れ、その場の状況から「何を」優先するのかを言うだけで、「何より」優先されるのかという点は明白です。しかし、ときに言葉を補わないと分かりにくいケースもあります。

たとえば、プレゼンテーション資料。箇条書きが多いため、うっかりすると書いた人にしか真意が理解できない文章になってしまうことがあります。今回は、日本と海外の製品づくりの違いについての箇所の中に「生産性優先で」という日本語が出て来ますが、これでは、効率や合理化のために増加する設備投資費よりも生産性を優先するのか、生産量を増やすための作業時間延長にともなって増加する人件費よりも優先するのかなど、よくわかりません。そこで「by prioritizing productivity over quality」と言葉を補って「質」よりも優先することを明記します。

 

国産は80m/分 ゆっくり引くと糸が弾力的でしなやかな糸
Japanese silk is reeled 80m per minute. Thread is reeled slowly so that it becomes elastic and smooth.

「しなやか」という言葉を聞いて、どのような状態を想像しますか。柔軟、やさしい感触、やわらかな物腰、女性的、角張ったところがない、簡単に切れない、折れにくいなど、みなさん、一瞬にしていろいろなイメージを持つと思います。

物事の状態や性質を表す言葉については、私たちは普段、イメージをもとに言葉を選択しているのではないでしょうか。そうして言いたいことを相手に伝え、それを聞いた側は耳にした言葉からやはり瞬時に意味をイメージし、内容を理解していきます。

日本語でのコミュニケーションであれば、これで大きな問題はないでしょう。しかし、日本語から英語への翻訳となると、この「しなやか」とは具体的にどのような状態を意味しているのかという点について考え、適当と思われる単語を使って表現しなければなりません。

原文は糸についての話なので「弾力的でしなやかな糸」とは、「弾力のある滑らかな糸」という意味と理解できます。弾力があって滑らかであれば、当然切れにくいと予想できるので、elastic and smoothで伸縮度があって、角張ったところのない、簡単に切れない糸のイメージを英語で表現できるのです。

 

綿の肌着だと標高何千メートル・氷点下何十度のところでは、びちゃびちゃになって凍結・命取りになるが、絹では透湿性があるから常にサラサラ

At several thousand meters above sea level and at temperature dozens of degrees below freezing point, cotton underwear would get soaking wet and freeze, which can be fatal. Silk, on the other hand, remains dry at all times.

「びちゃびちゃ」「サラサラ」などの言葉を聞くと、日本人であれば泥水に足を入れてしまったときの不快感や、触ったときに何も手につかない清潔感などの感覚までを含めて、その状態を想像します。日本語には擬態語が多く、私たちは日々さまざまな擬態語を使い分けて言いたいことを表現しています。

しかし、実はこれ、外国語として日本語を学習する人々にとっては、乗り越えなければならないハードルの1つです。「雨がざあざあ降る」「雷がゴロゴロと鳴る」などであれば音がするものなので理解しやすいようですが、「星がきらきら光る」「雪が音もなくしんしんと降る」など状態を表すとなると、なぜその擬態語が来るのか理解に苦しむとか。

ということは、つまり、擬態語を英語に翻訳するときには、その状態を詳しく言葉で説明する必要があるということです。「びちゃびちゃ」であれば不快感の伴う濡れた状態、「サラサラ」であれば清潔感、快適さなどを伴う乾いた状態を表すために、原文である日本語の文脈を考慮して適宜単語を選びます。今回は、「びちゃびちゃ」になった綿生地のしっかり濡れた感じを表すのに「soaking wet」を、透湿性のある生地の「サラサラ」した状態についてはシンプルに「dry」を使っています。

 

・製糸工場の女工さんは、冷たい水で過酷な労働条件にも関わらず白くて綺麗な手

・The factory women at Tomioka Silk Mill had to work under harsh labor conditions, using ice-cold water. Nonetheless, their hands remained fair-complexioned and beautiful.

色が白いのは七難隠すと言われるように、日本人にとって色白は誉め言葉です。でも、白だからと単純にwhiteと訳してしまうと、英語では意味が通じません。

考えてみてください。化粧もしていないのにおしろいをつけたように真っ白い顔の人がいたら、色白を良しとする日本人でもぎょっとするでしょう。そんな人は見たことがありません。常識的に考えても、雪の色を表すような「白」を使って肌の色を表現しようとすると、言いたいことが伝わらない英語になってしまうのです。

それではこの場合、「白」でないなら何色なのでしょうか。私たちが色白というときには、皮膚があまり日に焼けていないうえ、そのきめが細かい人を指して言うことが多いように思います。

ということで、肌の白さを表す場合「fair」を使います。「pale」も使えますが、肌を形容する場合、この単語には青白いなどのネガティブなイメージがあります。

ちなみに、太陽がまぶしい季節になると、日本人(特に女性)は紫外線対策をして日光を避けようと努力しますが、ヨーロッパ系の人々は積極的に日焼けして健康的な肌色になろうとすることが多いようです。ところ変われば価値観もさまざまで興味深いですね。

 

 

1カ月後手のひら全体がみずみずしくふっくらし、皮むけが無くなった
1 month later, the whole palm became fresh and soft without dry, peeling skin.

「みずみずしくふっくら」という言葉を聞くと、赤ちゃんのぷくぷくのほっぺを思い出す方が多いでしょうか。私も、この言葉が化粧品の効果について使われていたら、思わずその商品を手に取って購入を検討してしまうかもしれません。お米でもいいですね。みずみずしくふっくら炊き上がったご飯なんて、想像するだけでじんわりと幸せな気分になります。

この、日本人なら誰しも簡単に思い浮かぶ「みずみずしくてふっくら」な状態。ここでもし日本語を母国語としない人に「それって具体的にどういう状態のことを言うの?」と聞かれたら、みなさんはどのように説明しますか。乾燥したところがなくて、十分な水分を含んでいて、つややかで、指でつつくとそれを押し返すような弾力があって、シワがなくて、たるみがなくて、やわらかくて・・・と、人によってさまざまな表現の仕方があると思います。

今回の日本語の原文は、手のひらの皮がむける症状が改善したという内容ですので、「fresh and soft」を使って表現します。ところどころ皮がむけてザラザラだった手のひらの皮膚が健やかに再生し、やわらかく変化したイメージです。「みずみずしくふっくら」という大枠の中で表現すべき内容のわずかな相違を意識しながら、文脈に合うよう単語を選択しています。

 

 

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