安全データシート(SDS)を確認していると、まれに見慣れない言葉が登場することがあります。
その一つが「融火性(ゆうかせい)」という表現です。
一見すると専門的な化学用語のようですが、実はこの言葉、正式な日本語にも化学用語にも存在しません。今回は、この「融火性」という表現の正体と、正しくはどのように書くべきかを解説します。
「融火性」という言葉は存在しない
まず結論から言えば、「融火性」は誤記である可能性が高いです。
「融解」「発火」「可燃」といった用語が混同された結果、誤って作られた造語と思われます。
化学分野や法令(GHS分類、労安法SDS様式など)にも「融火性」という分類や性質は存在しません。したがって、この用語がSDSに記載されていた場合は、原文(日本語SDS)の誤りを疑うことが自然です。
「発火性」や「自然発火性」の意味で使っているだろう
SDSでは、物質の燃焼や反応に関する性質を明示するため、以下のような項目がよく使われます。
| 項目名 | 英語 | 意味 |
|---|---|---|
| 可燃性 | Flammability | 火がつきやすい性質 |
| 発火性 | Pyrophoricity | 常温で自然に発火する性質 |
| 自然発火性 | Self-ignition | 自発的に燃え上がる性質 |
| 酸化性 | Oxidizing properties | 他の物質を燃えやすくする性質 |
| 水との反応性 | Reactivity with water | 水と反応して発熱・発火する性質 |
「融火性」が記載されていた今回のSDSでは、「自然発火性、水との反応性」がマルカッコで説明されていました。つまり、「融火性」=「自然発火性、水との反応性」という意味なのですが、しかし、どちらも「火に融ける性質」という言うには違和感があり、それに「自然発火性」と「水との反応性」は全く異なる意味です。
想像するに、「自然発火性」はまんま発火であり、「水との反応性」は「水と反応して発火する」と読み取れる(というかそう読み取れなくもない)ことから、「融火性」は「発火性(または自然発火性)」に近い意味を持つと考えられます。
「発火性」と「可燃性」
ちなみに、「発火性」と「可燃性」は、同じことのように見えますが、厳密には違っており、「発火性」は、「可燃性」の中でも特に火源がなくても自然に燃える性質を指します。前者は「発火する性質」、後者は「燃える性質」を言っています。
「融火性」にはマルカッコで「自然発火性、水との反応性」があり、どちらも発火の意味になりますので、やはりここは「可燃性」の意味ではなく「発火性(または自然発火性)」の意味と捉えるのが自然です。
いずれにしても、もし不明瞭な用語を見かけた場合は、SDSの作成元に確認するか、GHS分類に基づいて表現を修正するのが望ましいです。
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